漂書

ぼちぼちと、ゆるゆると

「私的録音録画小委員会中間整理に関する意見」

先ほど、この件についてパブリックコメントを送付しました。

具体的な内容については下記になります。

「文化審議会著作権分科会私的録音録画小委員会中間整理」に関する意見募集の実施について

この改正案の問題については、こちらの記事が分かり易いと思います。

「ダウンロード違法化」のなぜ ユーザーへの影響は - ITmedia News

また、先に書いたMIAUにて、パブコメ素材として問題点が列記されています。

もちろん、これも盲滅法にコピペすればいいと言うものではありません。

きちんと自分で考えて、納得することが重要と考えます。

ダウンロード違法化に反対するパブコメ素材

また、ぼくが実際に送ったコメントを下に記します。

何かの参考になれば幸いです。

私は、著作権法第30条を変更し、違法にアップロードされた著作物のダウンロードに対し、その適用対象を限定するという、本報告書にまとめられている案(以下「ダウンロード違法化」とも記します)に反対します。

違法にアップロードされたコンテンツをダウンロードする行為を違法化すれば、著作権侵害による被害が確かに小さくなる可能性はあります。

しかし私は、本報告書の示すような違法化には、いくつかの問題があるのではないかと懸念しています。

私が意見を述べるのは、以下の8件です。

1. 104ページの「第30条の適用範囲からの除外」の項目

2. 105ページの「第30条の適用範囲から除外する場合の条件」の項目

3. 108ページの「第30条の適用範囲からの除外」の項目

4. 59ページの「ファイル交換ソフトを利用した私的録音録画の現状について」の項目

5. 71ページの「違法な携帯電話向け音楽配信からの私的録音の現状」の項目

6. 108ページの「検討結果」の項目

7. 今回の中間報告全体に対して

以下、各項目毎に意見を述べさせていただきます。

■104ページの「第30条の適用範囲からの除外」の項目

※この項目について私は下記の通り意見を提出いたします。

○法とは、啓蒙として用いるべきでは無いと考えます。

項目ウについてですが、これは順番が逆であると考えます。法改正の前にまず行うべきは、既存の法律の適切かつ徹底した行使であり、それを行ってもなお十分な効果が認められないという客観的なデータを収集してから、新しい枠組みの成立に進むべきです。この順番を守らないことで、法の理念そのものが危ぶまれることに繋がりかねないと危惧します。

この問題に対処する法律として、著作権法2条1項9号の4に定められている「送信可能化権の侵害」が既に存在しており、これを行使することによって違法コンテンツをアップロードしたものを取り締まることは十分可能です。また、取り締まりを強化することによって、違法コンテンツをアップロードすることの抑制に繋がり、法改正を行わずとも、目的とされていることの実現には充分かと考えます。

以上の観点から、同項目の末尾に記されている「違法対策としては、海賊版の作成や著作物等の送信可能化又は自動公衆送信の違法性を追求すれば十分であり、適法・違法の区別も難しい多様な情報が流通しているインターネットの状況を考えれば、ダウンロードまで違法とするのは行き過ぎであり、インターネット利用を萎縮させる懸念もあるなど、利用者保護の観点から反対だという意見」に賛同します。

■105ページの「第30条の適用範囲から除外する場合の条件」の項目

※この項目について私は反対の意見を提出いたします。理由は下記の通りです。

○適法公開の識別が困難である

今回の「ダウンロード違法化」が審議会に持ち込まれた経緯としては、「YouTube」や「ニコニコ動画」といった動画投稿サイト、いわゆる「着うた」の「違法」公開サイトなどのWebサービスサイトに、著作権送信可能化権)を侵害するかたちで著作物が公開される場合があるため、と私は理解しています。

しかし、わが国の著作権法は無方式主義であり、必ずしも外観上権利表示を伴うわけではないのですから、外形上は権利侵害コンテンツなのか合法的な公開コンテンツなのか、分からない場合があります。また、ダウンロードしたファイルの内容は結局のところ入手するまでは分かりませんが、入手時点で違法となってしまうおそれがあります。この状況において、「権利侵害コンテンツでありうるという情を知りつつ、そうであるとしてもそれを容認してダウンロードする」行為には、違法性の意識の可能性があるとして故意があると判断されうることになるでしょう。これは合法的に振る舞おうとする一般ユーザにとって、合法的なダウンロード行為を幅広く萎縮するに足るリーガル・リスクになってしまいます。

また、権利者の許諾を伴う公開であるかどうかという問題も、ほぼ同様に考えられます。YouTubeというサイト1つをとっても、そこに公開されている動画が、合法的に公開されているかどうかは、ストリーミングで閲覧したりVideoDownloaderなどを使用してダウンロードしたりする一般ネットユーザーにとっては、自明ではありません。「違法アップロードであるかもしれないという情を知りつつ、そうであるとしてもそれを容認してダウンロードする」行為には故意があると判断されうることになり、やはり合法的なダウンロード行為が幅広く萎縮されることにも繋がります。

さらに、「情を知る」などの確認事項を利用者のみに押しつけることは、平等な理念に基づいたものではありません。このような規則を定めるのであれば、権利者側にも同等かそれ以上の規則、例えば「権利者側でコンテンツが公開を許諾していないことを、明確な形で利用者に示すことを義務づける」などの規則を課す必要があるのではないでしょうか。そして、そのような記載が認められないコンテンツに関しては、暗黙的に公開を許諾することを認めたものとする、などの項目も合わせて付与するべきと考えます。この際、「合法ダウンロードマーク」を付ければ識別できるという主張もあります。これは、同マークを売り込もうとする生野委員率いる日本レコード協会にとっては都合の良い議論であるものの、以下に示すとおり、数多くの問題点があります。

消費者およびコンテンツ提供者にとっては、ダウンロード時に本来不必要である確認を強いられたり、費用をかけて対応する(さらに同マークが同協会から「有償にて」提供されるものではないと信じたいところです)といったことが要求されます。このような、著作権法の制度趣旨にも合致しない、本来的に不必要な負担を強制できる正当な理由は、何もないはずです。

この合法マークというものが、コンテンツではなくサイトごとに設定されるということを前提としているのであれば、そもそも原理的にマークが設定できないサービスが多々存在します。YouTubeWikipedia、各種ブログサービスといった、一般ユーザー投稿型のサービスは、この「合法マーク」市場から閉め出されることになります。これは事実上の排他的な取引慣行であり、独占禁止法WTO各種条約に牴触するおそれがあります。そもそも、国際的な法の整合性という観点で、この「合法マーク」は海外サイトには当然適用されるはずもなく、実質的に意味のないマークになるか、WTO各種条約に牴触するかのどちらかになることでしょう。

「合法マーク」は、法制化されないのであれば、「勝手合法マーク」を規制する事が許されませんから、いかなる違法サイトも「勝手合法マーク」を設置する事により、実質的に利用者が違法ダウンロードの故意が認められないことになり、意味のない法改正ということになります。

「情を知って」という部分はあまりにも曖昧です。何をもって利用者が「情を知る」ことを可能となるのか、という点を定めることが先決であると考えます。映像や音声中に、コンテンツを公開することを許諾しないとクレジットされていたとしても、その部分を技術的に消し去った状態でアップロードされたり、逆に公開することを許諾すると改ざんされることも考えられます。このようなことは現在の技術で十分に可能であり、改ざんされたことを利用者が判別することは不可能です。このような状況で「情を知る」ことは難しいのではないでしょうか。

○違法性判断に疑問のある裁判例が少なくない

また、私は、インターネットの仕組みや実際の利用態様を必ずしも適切に把握してしない裁判所・裁判官の判決等も少なくないと言わざるを得ません。実質的に権利侵害性の無いWebサービスに対しても、実態にそぐわない拡張的な解釈に基づいて権利侵害を認める判決が見受けられます。たとえばMYUTAや録画ネットといったサービスサイトは、裁判所によって著作権侵害を認定されましたが、一般ユーザーにとっては、既に対価を支払って入手している著作物の複製物を、自分の必要とする利用形態に合わせて複製するだけのものであり、これが違法サイトでありそこからのダウンロードが違法であるとして権利侵害を認定されるというのは、著しく納得できないものであろうと思います。

架空請求の踏み台にされるおそれがある

さらにおそろしいのは、ダウンロード違法化は、さまざまな手法で架空請求に用いられる可能性が高いという事です。たとえば、著作権者本人が同意して公開しているがその旨明示していないため、客観的には著作権侵害であるようなコンテンツをダウンロードした者に対して、第三者が(パケットスニッフィング等によって同者がダウンロードした事実を把握したうえで)違法ダウンロードであり対価を請求する、といった例が考えられます。また、そこまでしなくても、通常の振り込め詐欺同様、10000人に請求してほんの数人でも引っかかる人がいれば、それだけでも重大な問題です。

■108ページの「第30条の適用範囲からの除外」の項目

※この項目について私は反対の意見を提出いたします。理由は下記の通りです。

○国際的な法規制の不整合

インターネットというものはそもそもグローバルなものであり、さらに権利制限というものは国によって異なっているものであるため、コンテンツがどの国の著作権法に違反していたらアウトとなるのか、ユーザーには容易に判断することができません。プロバイダ免責の違いも問題となります。たとえば、米国サイトがDMCA免責を満たしており米国では合法であれば良いのか、そのようなコンテンツが日本の基準に照らして違法と判断されたりしないのか、といったことがまずもって議論されていません。

○通信の秘密の侵害に繋がる

ダウンロード違法化に実効性をもたせようとすると、「合法的な」ダウンロードの際に、受信者情報をどのように確実に入手するか、という問題が生じてくることでしょう。その結果として、ダウンロード者のトラッキングについて法制化(例えば、プロバイダ責任制限法改正による受信者開示制度の創設)を求める動きにつながる可能性がありますが、それでは通信の秘密が侵害されることにもなりかねません。

○学問・研究・報道が制限される

日本にはフェアユース規定が存在せず、列挙されている権利制限も多くないため、調査研究目的で「違法サイト」にアクセスする行為すらも、違法と評価される可能性があります。ここでで問題にしているのは、商業的コンテンツ調査研究の入手手段として正規手段によらず違法サイト上の侵害コンテンツを用いるような場合ではなく、権利侵害を伴う二次著作物の調査研究や、あるいは「違法サイト」それ自体を調査研究の対象としている場合です。

そもそも、このような目的でアクセスするさいに付随する複製は従来から私的使用のための複製ではないと評価されうる領域です。しかし、従来はダウンロードによる私的複製が広く権利制限されてきたことから大きな問題となっていませんでした。これが、ダウンロード違法化に伴いリーガルリスクが現実のものとなります。

そうなると、権利者の意向に場合によっては反するような、実態の調査研究が困難になり、ひいては不偏不党であるべき学問の発展が損なわれることにもなります。

また、報道についても同様の問題が起こります。報道については第四十一条における権利制限がありますが、第四十一条の権利制限は「時事の事件を報道する場合には、当該事件を構成し、又は当該事件の過程において見られ、若しくは聞かれる著作物」を複製する場合に限定されており、サイト等の取材過程においてダウンロードする著作物がこの範囲に限定されうるとは必ずしもいえないと考えられ、やはり、ダウンロード違法化によるリーガルリスクが生じます。

そうなると、権利者の意向に場合によっては反するような、実態の報道が困難になり、自由な報道による民主主義の実現にマイナスになります。

■59ページの「ファイル交換ソフトを利用した私的録音録画の現状について」の項目(疑問)

※この項目について私は疑問をおぼえます。理由は下記の通りです。

○不透明な「ダウンロードによる被害」

違法アップロードによる被害とされるものが、本当に実態を反映していると言えるのか、疑問を持たざるを得ない部分があります。違法サイトによる被害額とはどんなものであるか、十分な根拠をもって示し、それによって初めて議論の俎上に乗せることができるものであると、私は考えます。

統計データも、どちらかと言えば印象操作のために作られているものがあるように思います。たとえば、ファイル交換ソフトを「過去に利用していた」ユーザーの数は、「若い頃にロック音楽を好んで聴いていた」音楽愛好家と同様に逓増し、いずれは現役のネットユーザー総数に対して200%、300%といった数字になることでしょう。

そもそも、ファイル交換ソフトの利用に関しては、そもそもユーザー自身が発信者になるわけですから、既に公衆送信権を侵害しているもので、ダウンロード違法化の根拠とする合理的な理由にはなりません。

■71ページの「違法な携帯電話向け音楽配信からの私的録音の現状」の項目

※この項目について私は反対の意見を提出いたします。理由は下記の通りです。

○不透明な「違法サイト」の範囲

こちらも統計上の疑問ですが、ネット上でも批判の多いMYUTA事件判決のことを考えると、一般ネットユーザーの理解から乖離した「違法サイト」判断が、本報告書でまとめられているアンケートで行われているかもしれません。私が権利者団体であれば、MYUTAや録画ネットのようなサイトも「違法着うたサイト」「違法動画配信サイト」としてアンケート結果をまとめ、一般ネットユーザーは法規範意識に欠けると印象づけようとするでしょう。しかし、それでは本当の一般ネットユーザーの法規範意識を反映しているとは言えません。

■108ページの「検討結果」の項目

※この項目について私は反対の意見を提出いたします。理由は下記の通りです。

潜在的な違法ユーザーという危険性

以上で議論してきたように、ダウンロード違法化は、一般ユーザーを潜在的に違法ユーザーとするものであり、これは国民の法規範意識にも合致するものでは言えず、法治国家として非常に好ましくない事態となります。これは、たとえば警察組織にとって優先度の高い一般ネットユーザーを、恣意的に簡単に逮捕できる便利な材料として機能することでしょう。それでは、公正な法運用に支障を来します。

潜在的違法ユーザーを大量に生み出すことになれば、その「違法ダウンロードを行ったかもしれない」という一般ユーザーの意識につけ込んで、偽の権利侵害を主張する詐欺や恐喝をする者が現われることになるでしょう。米国では既に現実化しています。ダウンロード違法化というのは、善人である一般ユーザーを詐欺師の餌食にするとっかかりにする、悪人に資する法改正となる可能性が低くありません。

著作権者がインターネットで流通させていないのが一因

そもそもコンテンツの違法なアップロードは、著作権者がそのコンテンツを死蔵し、あるいはコンテンツホルダーの都合での市場分割によって、日本でのみ適法コンテンツが流れないといった、日本人の利益に適わない事態があるためである、という例も多いように思います。たとえばApple iTunes Store for Franceで販売されている楽曲が、iTunes Store for Japanでは販売されていない、といった事例が報告されています。このような問題が生じるのは、ロングテール、超流通といった経済的に合理的なモデルに移行できない一部コンテンツホルダーが、前世紀型コンテンツ販売モデルに依存しているためではないでしょうか。

○「一億総クリエイター」「一億総ユーザー」の理念と矛盾

そもそも著作権法がその目的とする創作性の拡大は、過去の著作物に多かれ少なかれ影響を受けるかたちで行われるものです。文化庁でもそのことを意識して「一億総クリエイター」「一億総ユーザー」といった理念を打ち出して、政策を立ててきたのではなかったでしょうか。

過去の著作物へのアクセスを狭めるという発想は、これらの高尚な理念に基づく従来の方針とは相反するものであるように、私には思えます。過去の作品に依拠した創作は、公表され私的使用の範囲をこえた時点で、いずれにしろその依拠への相当対価を支払うことになるのです。場合によっては原作品以上に市場に浸透し、原作者の利益にも資するような派生作品の誕生の可能性を、あえて潰してしまうような法制度は、日本の国益に適うものと言えるのか、私は懐疑的です。

■今回の中間報告全体に対して

今回の議論には、法律や知財についての専門知識と同様に、インターネットという分野における専門知識が必須であると考えます。しかし委員の中には、インターネットについての専門知識を有している方のお名前は殆ど確認出来ません。インターネットというメディアは、これまでのメディアとは明らかに性質が異なっているため、これまでのメディアを下敷きとした議論では不十分であると考えます。NGNなどの次世代インフラが目前に控え、マルチキャスト放映などのコンテンツ配信、またインターネットラジオポッドキャストなど、新しいコンテンツが次々に出てきている現状において、既にレガシーと呼ばれかねないようなメディアを主点に置いた法改正は、これからのグローバル化において、我が国の戦略を不利にすることにしかならないのではないかと強く危惧しております。

ネガティブな方向を注視したマイナス方面への議論だけではなく、これから創発して来るであろう様々な未来像を視野に入れた、建設的な議論を期待します。そのような議論が交わされることで、市場の健全化と活発化が促され、我が国の知財戦略に良い影響を与えられるように思うからです。

小さな力かもしれないけれど、動くことが重要だと考えます。

それを、ただの自己満足、或いは偽善だと蔑まれることになったとしても。

ぼくは、ぼくの心を信じます。