漂書

ぼちぼちと、ゆるゆると

田中久重の万年自鳴鐘

これは観ておくべき。

時計というものは、総合芸術品だとずっと思っていました。

職人が持つ卓越した技術の高さと、極めて精緻な装飾。

その二つが、最も高い場所で組み合わさったものだからです。

時計というものを知れば知るほど、その奥深さに感嘆しか感じえません。

しかし、時計は欧州が本場だと思いこんでいました。

日本にも、「からくり」という文化があったことは理解していました。

けれど、それは「時計」という文化とは違うと思っていたのです。

日本独自の概念として、「和時計」というものがあります。

日本の風土に即した、感覚的な時刻表記です。

それを、機械的に実現する事なんて不可能だろうなぁ、と思っていました。

欧州には、"Grandcomplication"という、超が付くほどの複雑時計が存在します。

いつか、それをこの目で見てみたいと、ずっと思っていました。

日本には、そういうものは存在しないと思いこんでいました。

日本の時計は「精度」であり、「機能」ではないと。

動画を見た方なら、すでにご存じですね。ぼくはあまりにも浅はかで、無知でした。

日本にも、こんなに素晴らしい「万年時計」が存在していたのですね。

ほんと、どこを取っても「超一流」という表現しか思いつきませんでした。

欧州勢が作ってきたcomplicationにも、まったく引けを取っていません。

江戸時代というのは、本当に凄まじい時代だったんだなぁと、改めて思いました。

残念なのは、「田中久重」という名前がこんなにも埋もれていることです。

間違いなく、世界に誇るべき技術者の一人であることは間違いないと思います。

この時計があるだけで、日本という国家の威信は、確実に高まるはずです。

これだけの文化を持っていたということが、歴史に厚みを持たせてくれるからです。

「技術立国」を掲げるのであれば、尚更のことです。

なのに、「記念館」すらないというのは、ちょっと理解出来ません。

久重が創始者である東芝のSITには、田中久重ものがたりがあります。

そこを読むと、他にも数々の発明をしていることが分かります。

それらの業績を称え、きちんとした形で見せなきゃ駄目だと思います。

久重は、こんな言葉を残しています。

知識は失敗より学ぶ。

事を成就するには、志があり、忍耐があり、勇気があり、失敗があり、

その後に、成就があるのである。

身が、引き締まる思いです。

これは、あらゆる「技術」の基本だから。

NHKハイビジョンで再放送してくれないかな・・・。

綺麗な画面で、じっくりと観てみたい。

あと本来は、NHK自身でこういう素晴らしい番組をネットでも公開するべき。

過去の番組には、同じくらい素晴らしい番組が山ほどあるのだから。

自社で出来ないのであれば、ニコニコに上げるとかね。

まあ、現状を黙認することで、それを実現させようとしているのかもですが。

というのは、あまりに都合の良い解釈かな・・・。