漂書

ぼちぼちと、ゆるゆると

小寺氏と椎名氏の対談

ITmediaで素晴らしい記事が掲載されています。 対談:小寺信良×椎名和夫  第一回:「ダビング10」はコピーワンスの緩和か  第二回:「四方一両損」を目指した議論は何故、ねじれたのか  最終回:ダビング10の向こうに光は見えるのか 現場に身を置いている人ならではの、非常に興味深い内容です。 現在の状況が俯瞰でき、かつ理解の助けとなることは間違いないと思います。 著作権というのは、一朝一夕に理解できるほど生易しいものじゃないです。 ここ半年くらい、時間があるときに調べたりしてますが、分からない。 さらに法そのものの複雑さに加え、その運用状況は輪をかけて難しいです。 間違いないのは、既得権が悪いなんて主張は本末転倒であるということ。 既得権者は、その権利を得るために大きい代償を支払っていることも確かです。 その背景を無視して、全部チャラにしろというのはどう考えても暴論。 けれど、だから既得権は守らなきゃいけない、というのもnonsenseです。 だから、それぞれの立場の人たちが集まって、落としどころを探らなきゃいけない。 その場の状況というのは、非常に高度な駆け引きが飛び交うものだと想像できます。 User-sideを見てみれば、意見そのものが集約できないことがよく分かります。 これは当然の話で、何に重きを置くのか、という時点から個々人の主張が違う。 となれば、最大公約数的なまとめをしないと、議論そのものが先に進まない。 あとは、運用に伴って発生するであろう問題を、個別に手当していくしかない。 ところが、議論の場に参加しているmemberには、User-sideの人が少ない。 権利者側の人たちの主張は、ある意味で非常に分かりやすいです。 分かりやすい主張は、必然的に説得力を増します。 対抗するには、負けないだけの論拠や、説得力のある主張を出していく必要がある。 けれど、ネットにある意見の大部分は感情的な発言でしかない。 それが悪いのではなく、実は本質であったりするのも確か。 しかし議論という場に出すには、体裁とかを整えなきゃいけない。 そうでなければ、その場を説得することはまず出来ない。 権利者側の人たちは、積んできた経験の厚さが一般人とは段違いです。 そういうものを背景として構築された理論武装を切り崩すのは、容易ではないです。 小寺氏が第一回で仰っている、この部分が全てだと思います。
消費者や、学識経験者とかそういう人にも意見を聞かず、完全に放送業界と家電業界だけで物事が決まってしまった。そもそも国民全員に関わるような大問題を、一部の人間の思惑で決めてしまったことにこの問題の本質があるんです。
もう一つ挙げるなら、マスコミが意図的に口を噤んだことも大きいと思います。 放送業界の背後にあるのが、結局のところ新聞などの出版社であることがよく分かります。 コピー○○の問題の本質は、第二回にある小寺氏の発言と思います。
少なくとも「コピーのコピー」ぐらいまで認めないことには、ポータブルデバイスへ持って行くのも大変になるし、今アナログで行われている録画文化をデジタルに置き換えられなくて全部死滅するということが多分お分かりになってない。
で、個人的にその通りだと一番共感したのが、小寺氏のこの発言。
例えばNHKの番組は受信料を国民が払っているわけで、それはつまりコンテンツは国民の物じゃないの?っていう。それがなんであんなに制限されなきゃいけないのかという根本的な疑問があるんです。NHKは最初からコピーフリーで放送しなきゃおかしいと思うんですよね。 あと、CMも本来は露出しなければ意味がないものですから、最初からコピーフリーにしてYouTubeでばんばんコマーシャルだけでも流しましょう、みたいにならなきゃおかしい。一律コピーワンスにしちゃったことで変な状況になってますよ。
この意見に反対する人は少ないと思います。 けれど、こういう意見が表になかなか出てこない。 というか、かな。 椎名氏は本当に凄い人だな、と思います。
そこまでやってそれでも不便だったら、「やっぱり不便じゃないか」という話が持ち上がるわけじゃないですか。そうなったら権利処理とのせめぎ合いになるんでしょうけど、またもう一度話し合って新しいルール決めましょうよっていう。
こういう発言が出来るというのは、高度なbalance感覚がある証拠です。 それなのに、
いや、ネットなんか見ると、僕が「コピーワンスの元凶」ぐらいの勢いで書かれていることもあるんだけど、いや、俺それ全然知らないから、っていうことだけは、ここではっきりさせておきたいんです。もう勘弁してよっていう。
なんて言わせてしまう。 椎名氏を責めるのは、明らかに筋違いなのに。 そもそも、CONTENT'S FUTUREを読んでいれば、そんな発言は出ないと思うのですけどね。 あと、津田氏のこの発言。
僕が懸念してるのは、なんか面倒くさいからテレビ観るのやめようかなって人が増えて、一旦衰退する方向に向かっちゃったらそこから回復するのって中々難しいだろうな、ってことなんです。そのときに「ああ、やっぱりコピーナインじゃダメだった!じゃあEPNにするしかない!」とか言ってルール変更しても多分遅いと思うんですよね。
ぶれないなぁ、と思いました。 ぶれないことは、良いことです。間違いなく。 著作権を巡る世界というのは、本当に難しいです。 けれど、難しいからといって放っておくわけにもいかない。 いや本来は、放っておければそれが一番良いことだと思うのです。 一般の人が気にしなくて良いところで、適切に運用できているのなら。 ところが現状は、どうもおかしな方向に偏り始めてきてる。 だからこそ、このような記事は素晴らしいことだと思います。 何が問題となっていて、今どうなっているのか。 そういった事柄が、非常によく纏められた記事だと思います。 読んで、考えましょう。