漂書

ぼちぼちと、ゆるゆると

「日が当たる」ことの長所と短所

明らかに、世の中には「日陰者」の方が圧倒的に多いです。

別に技術者に限った話ではなく。

理由は様々ですが、「出る必要がない」というのも大きいのでは無いかと思います。

日陰者の産業,日陰者の技術者の記事本文と、それに付いたcommentを見て思いました。

改めて言うまでもなく、現代文明は、まともに考えると嫌気が差すくらい複雑です。

ぼくはIT関連のほんの一部しか分かりません。

その一部分だけで考えても、気が遠くなるくらい複雑です。

あるApplicationひとつ取ってみても、その背後にあるものは膨大です。

Hardware制御から始まり、言語、architecture、policy、などなど。

さらに、そのApplicationが目指しているもの。

Applicationをどのように駆動し、どのようにして利用するのか。

全てが緊密に接続し合って、大きな何かの一端へとさらに繋がっていく。

そしてそれは、一つの分野で終端出来るようなものでは無いのです。

最終的に、あらゆる物事がどこかで絶対に繋がれている。

このような状況になったのは、それほど遠い過去のことではありません。

かつては、様々な制約によって分野間は断絶されていることが殆どでした。

そのような前提であれば、各分野を代表する人が表に出て来ざるを得ないです。

分野間の折衝を行う人がいなければ、円滑に世界は回らないから。

ところが、分野間の障壁や断絶が薄れ、世界の見通しが突然良くなりました。

そうなったとき、代表者の存在意義はあまり無くなってしまいます。

さらに言えば、そこに「必然性」が無くなってしまったわけです。

どんな分野であっても、その分野の中身全てを把握できる人なんていません。

小さく細かく区切っていけば、ある段階から把握は出来るようになるでしょう。

けれどその段階においては、把握することに殆ど意味はなくなっているのです。

間に誰かを挟むよりも、当事者同士で話をした方が圧倒的に効率的だから。

情報costが激減したという意味は、こういうことなのです。

ところが、ここに一つ問題があります。

それは、「当事者たち」は本当にそれを望んでいるのか?という点です。

上記のような状況というのは、一見すると非常に効率的です。

けれど、効率的なのは「発注者」でしかないのも事実なのです。

「技術者」からしてみれば、余分な仕事が増えただけにしか思えない。

お金の話とか、そういう諸々のことなんて、本当は知ったこっちゃ無いのです。

だから「営業」と「技術」の仲は、仕事上では悪くて当然、なのです。

勿論、前提として、お互いがお互いに対して信頼と敬意は持っていなくてはなりません。

「技術者」というのは、究極的にはromanticistでしかない、と思っています。

現実ではなく、理想を追い求め続ける人種であり、むしろそうあるべきだと。

これは、過去の歴史が完全に証明している事柄でもあります。

表舞台に出てくる「発明家」の影には、名前すら知られない「技術者」が必ずいます。

その「技術者」は、表舞台に名前が出ていないことを苦々しく思っているのでしょうか?

かつては、素敵な言葉たちが、教訓として沢山ありました。

「身の程を知れ」「餅は餅屋」「適材適所」「船頭多くして船山に上る」

これらが何を言いたいのか、ちょっと考えればすぐ分かることばかりです。

「組織の歯車」なんて揶揄も、かつてはありました。

けれども、歯車であることの何が悪いのでしょうか。

機械を知っている人なのであれば、歯車という部品がいかに大切か分かるはずです。

大きい歯車や小さい歯車が組み合わさることで、一つの動作が成立する。

裏を返せば、一つでも正確に動かなければ、動作は成立しなくなる。

重要なのは、自らが属している「機械」はどんな機械なのかを知ることです。

そして、その中で自分という「歯車」が果たしている役割は何かを知ることです。

ここで挙げられている八箇条ですが、これは意識しなくても身に付くものです。

ある分野に邁進していけば、だんだんと見えてくるものなのです。

見えてこないのであれば、それは成長が止まっているということに他なりません。

よく、「専門馬鹿」という言い方があります。

けれど、本当のspecialistは、専門以外のこともよく分かっています。

その上で、あえて知らないふりをしていることが殆どです。

その理由は、もはや言うまでもないと思います。

現代社会においての一番の問題点は、「経営者」や「管理者」の不在だと思います。

この人たちは、「設計者」であり「調整者」です。

決して、「銀行屋」や「株屋」であってはならない、と思います。

目に見えることだけが全てではありません。

星の王子さまを引くなら本当に大切なことは目には見えないのです。

重要なのは、あらゆる物事があらゆる人の目に入らないことだと思います。

もっとも、ここで言われている「技術者の地位向上」には大賛成なのですけれどもね。

それぞれの業種の持つ「役割」というものを、きちんと理解して欲しいと思います。