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IPv4 address枯渇問題

IPv4アドレス在庫枯渇問題を考えてみる - jargonaut [ITmedia オルタナティブ・ブログ]

この記事が目に触れたので取り上げてみます。

一応、NetworkEngineerなので。下流の方にいる下っ端ですけれども。

まず、参考文献として、池田信夫氏のBlogで、IPアドレスは枯渇していないという記事が半年ほど前に出ています。

この記事の賛否はさておき、重要なのはCommentで池田氏が発言しているこの部分です。

たぶんグローバルなアドレス体系としては、50年後もv4が使われていると思います。それは技術ではなく、「言語」だからです。いくらエスペラントが機能的にすぐれた言語であっても、英語を置き換えることはないのです。

IPとは、Internet Protocolの略称です。言わずもがなですけど。

Protocolというのは、約束事なわけです。

v6の問題点は唯一つ、下位互換性が無いことに尽きます。

そしてその問題点は、致命的なものなのです。

約束事というのは、それを前提にして物事が作られていく、ということ。

であるのなら、今までの資産が使えなくなるものが普及するとは思えません。

実際、未だにToken Ringを捨てられないところもまだ残っています。

理由は単純で、Tokenでしか動かないApplicationがあるからです。

保守costが高くとも、新しいApplicationを作るcostの方が圧倒的に高いからです。

理論だけでいえば、v6にすれば枯渇の問題だけは確かに解決するでしょう。

しかし、枯渇の問題が切羽詰ったものではない以上、v6の普及はありえないと思います。

もっと根本的な、「手で触れるmerit」が必要なのです。

そしてまた、なんでそんなにGlobal addressが必要なのか、よく分かりません。

実際問題として、公開serverってそんなに多いとは思えないからです。

各端末に、全てGlobal addressを振る必要性って、まだ無いと思います。

むしろ、世間はSaaS方面に移行してきているので、余計にです。

これが10年くらい前の話だとすれば、まだ理解は出来るのです。

しかし、これだけv4が広まってしまった以上、v6に移行するmeritは見出せない。

むしろ、「もう一つのNGN」こと"New Generation Nework"に期待すべきと思います。

IPには、多くの問題が顕在化してきています。

v6もIPである以上、その問題は解決できていません。

address枯渇だけが問題なのではありません。もっと深刻な問題も沢山あります。

overheadが大きすぎるとか、経路設計の膠着化とか、無線との親和性とか。

どうせやるなら、根本的に新しいarchitectureへと移行するべきだと思います。

あと10~15年で、まったく新しいNetworkが出てくると仮定しましょう。

そうなれば、いまv6に移行することは不効率の極みと思います。

v4からv6への移行は、生半可な事業ではありません。

v4-v6変換をするにしたって、その設定は誰がするのか、という問題もあります。

公開server一つ取っても、RouterとFirewallは確実に存在するでしょう。

さらに、LoadbalancerやIPS/IDSなんかも絡んできます。

それらをNATの代わりにv4-v6変換するのは、だいぶ大変です。

そして、それらを終わらせたとしても、10年ちょっとでまた置き換わる。

となれば、企業がそのcostを支払ってまで移行しようと思うか疑問です。

もっといえば、その作業を行うEngineerの絶対数が不足することも確実でしょう。

DualStackなら同時移行は発生しませんが、それでもかなりの期間が必要となります。

そういう時が来たと想像するだけで、軽く眩暈がしそうです。

池田信夫氏の記事にもあるように、必要なのは再配分の仕組みだけです。

そしてそれは、本当に行き詰ってしまったのなら必ず出現してきます。

v6を否定するわけではありませんが、すでに遅きに失してしまったと思います。

InternetというKiller-Contentsがあったからこそ、IPはこれほど浸透しました。

そしてv6は、そういう意味では"Internet Protocol"ではないのです。

ぼくは、研究者ではなく現場の人間です。

ですから、技術的にどうこうという専門的な話は分からないところも多いです。

それでも現在の状況において、v6にmeritを感じることは出来ません。

いま言われているmeritが、v4を置き換えるほどのものとは思えないのです。

個人的には、IPv6を選択し、そして、現状のIPv4ネットワークの中にあるサービスにIPv6を混ぜていくのではなく、IPv4と並立する形でIPv6ネットワークのサービスを作っていくのが一番いいと考えています。そうすれば複雑さが激減しますし、最初はIPv6のサービスのほうが小さいですが、いずれは逆転してIPv4のサービスが縮小していくという形で収束を図ることもできます。
という提言もされています。

現在、フレッツの一部serviceで、この試みは既に為されています。

けれど、それはClosedなnetworkに留まっているのが現状です。

v6から、Internetという怪物に対抗できるようなものが現れるとは思えません。

そしてInternetを駆動するprotocolが、v6に置き換わる日は決して来ないと思います。

TCP/IPの終焉は、近い将来にまで迫ってきていると思います。

いま必要なのはv6への移行ではなく、v4の延命に徹することだと思います。

NAT/PATやDDNSなどを活用すれば、まだまだv4は枯渇しません。

むしろ早急に心配すべきは、multicastをどうするのか、だと思います。